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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)53号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾に添えた別紙記載のとおりである。

一、上告理由第一点について。

(一)論旨(イ)について。原判決中論旨が引用する一節を含む前後の部分は、要するに、大字平野が明治四〇年二月一〇日その所有の奈良県吉野郡高見村大字平野六三番地山林五畝歩の内東南方三畝一五歩の地域に、堀山常吉のため地上権を設定する積りで、本件係争地域(原判決主文にかゝげた地域)に右地上権を設定した事実を認定したものに外ならない。そして右事実は、原判決の援用する各証拠を綜合すれば認定し得られないではないから、原判決が虚無の証拠により事実を認定したとの非難は当らない。

(二)論旨(ロ)について。山林においては或る具体的の場所の地番が果して何番であるかは近隣の人達にもよくわからなくなつてしまつて居る場合がよくあるのであるから、論旨にいう様にそう簡単に論ずることは出来ない。原審は、その認定の一連の事実関係に照し、堀山常吉の本件地域に対する地上権の行使及びその地上立木の占有は、いずれも善意且無過失に始められたものと判定したのであつて、其判定に実験則違背若しくは法令違反ありとすることは出来ない。したがつて、論旨は、採用に値しない。

(三)論旨(ハ)について。堀山常吉の本件地域に対する地上権の時効取得につきその旨の登記を欠く事実は、上告人が原審において主張しなかつたところであるばかりでなく、原判決の認定するところによれば、上告人の前々主裏隠居忠吉は実体上の権利を持たぬ架空の地上権者で、したがつて、同人から岡本佐市郎を経て上告人に対しては、その登記の欠缺を主張し得ないものである。よつて、本論旨も理由がない。

(四)なお、上告人は、原判決が本件地域の地番が六一番地か六三番地かの判断をしなかつた点をしきりに攻撃するけれども、判文自体で明なように、原判決は、本件地域が六一番地又は六三番地のいずれであるにしても、同地上に生立する係争立木は結局被上告人の所有に属することを認定したもので、その認定に誤がない限り本訴請求の当否の判断としては十分であるから、原判決が本件地域の地番が六一番地か六三番地かを確定しなかつたこと自体は、あえて違法とはいえない。よつて、この点の論旨も理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条及び第八九条の規定に従い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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